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梅干し

(67×52)

梅干し 1999.9(67×52)
結婚してから毎年、我が家ではたくさんの梅干しを漬けてきた。
夫が亡くなったその年も梅干しを漬けた。
紫蘇の葉を付け込むまで、夫はベッドに横になり、側にいてくれた。
しかし、梅を干す土用の日には小さなお骨となって家に帰ってきた。
夫がいなくなった悲しみは、
私が生きてきたことすら否定してしまうほどの力で私を苦しめた。
そんな時、布絵を造り始めた。
私はまたいつもの年のように梅を漬けた。その時の梅干しの布絵である。
深い赤い色はとても優しく、暖かだった。
その赤い色をどうしても残したいと思えた。
最初は干した梅だけにした。が、梅干しの豊かさが出てこない、
壺にいれ、箸をさし、まわりに夫と見た青い梅、
赤い紫蘇も置いてようやく出来上がった。
しばらく、この布絵の梅干しを眺めていた。
「私は梅干しを漬けることで家族を守ってきた。私はとても幸せだった」
そう思える私がいた。
梅干しの深い赤い色は、生きていたことすら否定している私に、
その事を教えたかった、励ましたかったのかもしれない。
少し元気になった私がいた。

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